皆さんも良くご存じの獺祭(令和7年6月に会社名も朝日酒造株式会社から株式会社獺祭に変更)は、様々な課題を乗り越えて現在に至ります。その成長の軌跡は多くの記事や著書で示されていますが、改めて市場、需要という観点からポイントを整理してみましょう。
⑴スタート時点で既に市場は縮小
桜井会長が父親から酒蔵を継いだ1984年(昭和59年)時点での日本酒生産量(課税数量)は、ピークの177万KL(1973年)から既に2割以上減少しており、いわば衰退産業となっていました。
⑵市場は先発の既存業者が占有
地元岩国やその周辺市場の販売先は既に先発業者に押さえられており、後発の獺祭が入り込む余地はありませんでした。そのため、新たな市場を模索することになります。
⑶消費者ニーズの多様化
酒好きは清酒以外にも様々なアルコールを飲むようになり、ビールや洋酒を好む人が増え、焼酎やワインの人気も高まって清酒離れが進みました。
以上のように、人口減少による市場縮小を懸念するどころか、日本酒業界全体が「お先真っ暗」な状態でした。実際、清酒業界は縮小の一途をたどり、2022年には41万KLと、ピーク時の4分の1以下となっています。
このような環境の中で獺祭が成長できた最大の要因は、純米大吟醸という差別化製品への特化と、市場を地元の外に求めたことに集約されます。つまり、製品差別化と新市場への進出によってみずから需要を創造したのです。新市場は国内にとどまらず、早い段階から海外市場を開拓、また、アメリカにも生産拠点を立ち上げました。売上増加策の基本は新たな商品・サービスの投入と販路・顧客の拡大ですが、獺祭は原則どおりの事業展開を行ったと言えます。
人口減少時代の市場縮小に対応するために、企業は製品・商品やサービスの差別化と新市場への進出という経営の原則に沿って、需要創造の道を探る必要があります。
(「差別化」×「新市場」=「需要創造」)